Transformative service model by using wearable device for aging society in Thailand

Author: Shayarath Srizongkhram, 2022/09 博士号取得

センサー技術やGPSを搭載したウェアラブル機器は,健康データの収集や位置情報の効果的利用を可能にし,高齢者の健康増進を含む広義の医療の質向上に寄与しうる半面,その利用促進に向けた技術採用行動に関する研究は十分な蓄積がない.本研究はこの背景のもと2つの小研究を展開・統合することで,高齢者向け医療におけるウェアラブル機器の導入促進・活用のモデルを提案することを目的にしている.

第1部は,高齢者医療にかかわる3種のステイクホルダーのウェアラブル機器への期待を分析した.医療担当者(神経内科医師,理学療法士,看護師),家族,高齢者本人の計27名から,ウェアラブル機器(スマート時計,GPSトラッカー,スマート眼鏡)について説明したうえで,医療の質を高める点でどのような機能があれば採用するか,および,そうした機能は高齢者の健康増進にどう貢献しうるかについて半構造化面接を実施した.データをグラウンデッド・セオリー・アプローチで分析した結果,健康維持や転倒防止機能に期待する反面,高品質医療に必要な医療計画や(服薬等での)リマインダー等の機能において,期待を満たしていないことが分かった.これら発見事項は,高齢者医療を巡る多様な関係者にとって,同機器に対する健康増進の期待の多様性を示すものであり新規性がある.

第2部では,ウェアラブル機器の採用意向に対する態度を分析した.医療担当者,家族,高齢者自身を含む360名のデータを収集し,技術受容性に関する諸理論を基に構築したモデルを共分散構造分析で考察した.結果,ウェアラブル機器の採用を進める積極的態度は,当該機器が健康増進への信頼感に依る一方,高齢者においては自身の健康維持に対する自信の無さが消極的な採用意向に関係することがわかった。高齢者医療でウェアラブル機器導入を進めるには,技術に対する態度を変化させる必要がある.そのために,自分自身で健康維持・管理ができるという自己効力感を何らかの形で育むことを優先する必要性を見出した.技術の採用促進に関しては,これまで低価格化,高機能化等の製品マーケティングの高度化が論点になってきたなかで,高齢者の自己効力感の点に注目したことは独創的である.

ウェアラブル機器への期待に関する発見事項(研究1)と,機器採用を進める要因分析の結果(研究2)を統合して,本研究では高齢者医療サービスの向上のためのウェアラブル機器を用いた高齢者医療サービスシステムモデルを提案した.それは,高齢者医療にかかわる医療関係者,家族,高齢者本人という主たるアクター間の相互作用で同機器が可能にする価値提案を示すと同時に,各アクターが機器採用をするための行動変容の視点を提示するものであり,実務的に有用な思考枠組みを提案していると考えられる.

以上,本研究は高齢者やその家族等に配慮した高齢者医療サービス研究の高度化に寄与するものであり,学術的に貢献するところが大きい.

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.