社会インフラ業界組織における未来知識共創マネジメントの研究
Author: 村田 尚(Murata Hisashi),2025年3月博士学位取得
建設業やエンジニアリング業を含む社会インフラ産業は、環境・社会・経済の複数の活動システムに及ぶ課題を視野に、先端科学技術を活用した事業構想立案が求められている。このために、組織内議論のみならず、組織を超えた情報収集と知識創造・共有をする場として業界組織(協会)が機能してきた。本研究はその業界組織において、参加者が共創的に複数システムの本質を捉え、未来の産業発展に寄与する知識を創造促進する手法として、未来知識共創マネジメント方法論を提案・効果検証するものである。
これまで業界組織における未来構想の議論は、業界多組織参加者が関与することによる知識共有の限界と、参加者が持ち寄る課題認識の短期志向性による長期継続的な未来構想の困難さ、という2つの主たる課題があった。提案した未来知識共創マネジメント方法論はこれら2課題の改善を目指し、知識経営論と技術経営論の知見を融合して(1)多組織参加者によるロードマッピング実践と(2)その継続運用支援、を中核的機能としている。具体的には(i)思いの共有、(ii)現場での知識獲得と共通体験、(iii)獲得した知識によるロードマップ作成、(iv)報告書作成、のプロセスで構成されるロードマッピング手法を開発し、その継続性を動機づける評価観点を開発した。
研究ではこの方法論をエンジニアリング協会という社会インフラ業界組織で約8年にわたり適用した。そして方法論がもたらした参加者にとっての経験の意味を、アンケート調査、インタビューを通じて、分析した。結果、思いの共有をもとに現場で知識獲得・共通体験をすることで、参加者らに協働的な雰囲気を醸成し、その後のオープンな議論を促したことがわかった。これにより、共通課題に対する協調的知識創出・共有が進み、業界レベルのロードマップ開発の質を高めた。さらにそうした活動が、新たな社会・技術動向の本質を探究する態度の醸成、過去に作成してきたロードマップへの内省を動機づけ、活動の長期継続への能動性が向上したことを観察した。
こうした本論文の論旨を踏まえ、審査会では従来の知識経営研究において十分な蓄積のなかった、多組織参加者間での未来知識創造に関し、プロセス方法論を開発し効果検証をした点に、独創性と新規性を認めた。加えてその実践で、課題に対する思いの表出が参加者の知識の共創を促進し、それが新たなサービス開発への知識創造にも寄与していたことで、実務的有用性も認めた。
以上、本論文は、多組織参加者間での未来知識を共創するための実効的方法論を提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。
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