Transformative Supply Chain System for Ecosystem Well-being

Author: Nitipon Tansakul (石川・博士)

本研究は人間のウェルビーイングに貢献する新しいサプライチェーン(SC)のモデルを提案するものである。これは近年進みつつある、経済・自然・社会の観点から持続可能なSCの仕組みを考察する研究領域に対し、ウェルビーイング志向のサービス研究であるTransformative Service Research:TSRの観点から取り組んだという点で新規性がある。

 研究ではまず、綿密な文献調査を通じ従来研究が検討してきたSCの考え方を整理し、TSR視点でSCを変革する場合の主要な論点は何かを明示した。例えば、従来は主要目的が利益であるのに対し、TSR視点では目的はウェルビーイングにある。また従来はネットワークの観点から効率的な供給が重視されていたが、人間のウェルビーイングの視点を持った場合、供給業者間だけでなく供給先の業者や最終消費者らと共通の制度的規範の中での自己調整的なシステム、いわゆるエコシステムを形成することが論点であることを示した。こうした文献調査による論点整理を基盤に(1)供給主体、(2)供給先主体、(3)顧客、(4)環境、(5)社会、を主要主体とし、制度を含めた外的環境とのかかわりの中で、主要主体が一体となってエコシステムを形成しながら人間のウェルビーイング形成に寄与する変革的なSCエコシステムを提案した。

 このシステムについて、本研究では供給主体視点、顧客視点、そして制度視点から分けて検討し、それぞれの視点において、主要主体の活動がシステムにどのような影響を持ち、何が重要かを考察している。

 第1は供給主体視点からタイのDoi Tung開発プロジェクトを事例分析した。これは非合法の農作物を栽培し生計を立てざるを得ない地域のSCを見直し、現在は自立的運営が可能になった成功事例である。分析を通じ、供給主体に適切な知識を提供しかつモノの販売・流通まで一貫したSCを築くことが、域内の生活者の生活の質を向上に寄与する重要要素であることを明らかにした。第2は顧客が製品の質や購買意欲を促進するような広告刺激のあり方について、日用用品を題材に618サンプルのアンケートデータを基に分析した。生活の質を高めるような製品・サービスであることを的確に顧客に認知してもらうためには、エコシステム上の各主体が関与して形成されうる社会的価値の訴求が有効であることを見出した。第3は制度的影響として、アセアン共同体の発足におけるタイ国のSC変革を題材にした。政府や企業関係者にインタビューを実施し、労働者や市場、競争力や物流の観点で直接・間接的に制度形成がSCに影響しうることを確認した。提案システムに関するこうした多面的な考察は、システムモデルの妥当性検討に貢献するだけでなく、システムの実践的展開の観点からも有用性に富む。

 こうした知見をもとに、変革的なSCシステム構築に必要な要素として、知識提供を含む6項目の重要要素を見出した。以上、本論文はTSRの観点から新しいSCマネジメントシステムを提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.