グローバル技術開発体制における内部統制知識マネジメントの研究

Author: 梅田 健太郎(品川・博士)

グローバルに技術開発を進めていくうえで、部⾨間や国際間での電子的な情報交換は欠かせない。しかしそれは同時に重要情報の漏洩・紛失リスクを伴うため、企業は組織成員に内部統制に関わる知識を獲得させルールに従った行動を促す必要がある。この観点からこれまで情報セキュリティや内部統制の研究が進められてきたが、技術開発という創造的活動が求められる現場においては、内部統制知識は一般に制約条件として組織成員に認識されることで、その知識普及の速度においては現場のやらされ感ととも緩慢に推進されていくという課題に対しては十分な実効性を持たなかった。

本研究ではこのような背景から、組織成員への内部統制知識の普及速度を高めることを目的に、ミドルマネジャーのための知識伝達マネジメント手法を開発した。具体的には、未来志向型モチベーションマネジメントを基礎に、組織のビジョンと達成のための行動指針を、現状と未来の観点から思考を促すコミュニケーションシートの開発、そしてそのグローバル技術開発体制展開指針を、既存研究及び現場観察の知見を基に策定した。内部統制に動機づけの知見を取り入れ、かつ実践的な手法を構築する点は独創性に富む着眼といえる。

同手法の効果は、⽇本の製造業A社を対象にその国内グループ企業約8000⼈に対する内部統制知識伝達の場で検証した。社内規則に関する知識を組織成員に伝達する際、提案する手法が、従来型に見られるような企業方針を一様に電子メールで伝達する手法と比べて、いかに速く組織成員の⾏動変容に至るかを、A社のITシステムに蓄積された警告件数データを基に、規則からの逸脱率を算出することで分析した。結果、提案手法の効果として(i)逸脱率の急速な低下がみられたこと、(ii)逸脱率の低下は長期的に安定で組織報復行動を抑える効果があることを見出した。さらにA社グループ海外⼦会社として、中国・フィリピン拠点での同様の知識伝達事案に対してモデルの有効性を検証した結果、提案手法は日本での取り組み以上に知識普及を加速させることが分かった。内部統制知識の普及に未来志向型コミュニケーションが有効であることを、実際の逸脱率を基に示した点は従来研究と比較しても極めて新規性がある。

内部統制知識のグローバル拠点への展開は、技術系大企業がリスクを低減させながら効果的な技術開発を推進するうえで不可欠である。総じて本研究は、未来志向的な手法を導入することで、内部統制知識が組織成員に自身の重要事項として捉えることを促進し、それが個々の非逸脱行動として具現化しながら組織内に急速に安定普及したことを示した。これは研究の実務的貢献として優れている。

以上、本論文はグローバルに展開する技術系大企業における内部統制知識の効果的普及に関し、組織論の観点からミドルマネジャーのコミュニケーション手法を提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.