Knowledge Based Service Provision for the Enhancement of Municipal Solid Waste Management System

Author: Sukholthaman, Pitchayanin(石川・博士)

発展途上国の都市部で深刻化している廃棄物問題は、人間の生活の質に大きく影響を与えうる。これまで廃棄物マネジメント研究では、廃棄物を出す者と処理を担う公的機関との2者間関係で捉えられることが多く、また現実でも主体間の価値観の違いが廃棄物創出の増大に歯止めをかけられない現状があった。こうした問題の改善には多様なセクター関係者が協同して対応していく必要があるものの、十分な研究の蓄積が無い。この背景から本研究では、分析視点として三者間価値共創と多主体協力というサービス持続可能性に関わる概念と、知識マネジメントを取り入れ、タイ・バンコク市を対象にした多面的調査に基づき、新しい廃棄物マネジメントの概念を提案している。

 論文は3つの研究(A、B、C)で構成されている。研究Aではバンコク市の廃棄物問題の現状について、とりわけ生活者が廃棄物最小化にどのような態度を有しているのかを把握するために、質問紙調査(422件)および専門家インタビューを実施した。その結果、回答した生活者の8割は何らかの形で廃棄物マネジメントに協力したいという意欲があるものの、それが実現されていないことを見出した。そこで研究Bでは、CBO(Community Based Organization)が、廃棄物マネジメントに関する関係者の協力を結集するうえでどのような可能性を有しているかを、生活者への質問紙調査(729名)と廃棄物収集者(49名)への質問紙調査および専門家インタビューを実施し分析した。その結果、CBOが多主体のリサイクル意識を形成する効果を持つ等、関係者の態度形成に影響をもたらしうることを確認した。研究Cでは、主に環境への価値を共創するうえでどのような知識が必要か分析するために、27名の専門家インタビューと公開資料分析を実施した。その結果、廃棄物マネジメントプロセスに応じた必要な知識を6項目明らかにし、それが得られた際に共創される価値との対応付けをした。

 論文では,こうした研究群を総括し多主体価値共創型の廃棄物マネジメントとそれを実践していくための知識創造活動過程について考察している。いうまでもなく廃棄物の形態や状況に応じてその実践の形態は変化するが、本研究の特筆すべき点はCBOが中間組織となって利害関係者の共同および知識創造を促進していける可能性を、ロードマップを作成して段階的に示したことにある。これは、政策立案者が実際に都市廃棄物問題について検討する際のシナリオ作成において極めて有効な視座を提供する。

 以上、本論文は、発展途上国の廃棄物問題に関し、サービス学と知識マネジメントの観点から多主体を関与させ知識創造を促進させることで環境への価値を創出する概念モデルを提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.