Value Co-creation in eHealth Service Model for Elderly Care: A Case of Emergency Med. Serv. System

Author: Sukkird, Vatcharapong(石川・博士)

情報技術の発展と相まって電子的健康管理(e-Health)による医療サービスの質向上が期待されている。特にアジア発展途上国は医療へのアクセス困難が課題であり、e-Healthを効果的に活用していくことが重要である。本研究は医療の中でも特に生命を左右する救急医療に注目し、途上国における高齢者向けの救急医療サービスを支援するe-Healthモデルを提案することを目的としている。

 論文は3つの研究から構成されている。研究1では、発展途上国の医療事情に関する二次資料の系統的なレビューを通じて、アジアの低・中間所得国に、携帯電話やタブレット機器に代表されるモバイル技術の展開に課題があることを見出し、その中でも関係者の知識共有を促す技術の適用・普及が必要であることを結論付けた。関係者同士が知識を共有することで、サービス提供者選定、緊急時対応、自己管理意識醸成にかかわる意思決定を効果的に進めることができる。そこで研究2では、タイの成人男女に自らの医療情報を共有することを含めた、知識共有のための技術の使用意向とその背景要因を尋ねる質問紙調査を実施した。得られた114名の調査データを共分散構造分析で解析した結果、家族や医師を含めた他者からの動機づけが知識共有意識を醸成し、それは技術使用にかかる費用要因よりも関係があることを見出した。ここから、高齢者を取り巻く医療関係者間のコミュニケーションを促進させる包括的サービスシステムモデル構築を課題とし、研究3では、研究1と2の知見を融合することで救急医療のためのe-Healthサービスシステムモデルを構築した。これは政策的視点、金融的視点、ビジネスプロセスの視点、モバイルアプリやオンラインサービスを含むサービスプラットフォームの視点で構成され、知識共有を促進する包括的サービスシステム構築のレンズとして機能する新規性のあるモデルである。このモデルの妥当性を検討するために、タイにおいて先行する3ケース(1)Asia Nursing Home:民間医療サービス企業、(2)Bangkok Emergency Service:救急医療機関をまとめるネットワークサービス組織、(3)ThaiHealth:救急医療に関する公的コミュニティケア支援組織、のサービスシステムを分析し患者にとってより質の高い医療に向けた提言をしている。モデルとしての有効性については十分に検証しきれていないのが本研究の課題ではあるが、医療システム内関係者の知識共有の現状把握および課題抽出のための視点を提供している点で価値がある。

 以上、本論文は、発展途上国の救急医療e-Healthサービスの質向上に向けて、政策的に検討すべき視点を価値共創の促進の観点から提案し、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.