高齢化社会における持続可能な地方地域のためのサービスシステムの研究

Author: Ho Quang Bach(石川・博士)

超高齢化社会に直面している日本において、高齢者は単に支援サービスの顧客として、資源を消費する主体から、自ら積極的に経済活動や社会的共助の担い手として活躍する主体に変革していくことが、持続可能な地方地域の形成において重要である。本研究はこうした問題意識のもと、サービス学の知見を基盤として、人間同士の経済的・社会的交換を分析視点に、資源消費する受容者から資源統合に参加する一般行為者へと、高齢者を変革するサービスシステム理論を新たに構築している。

 研究ではまず、石川県内に住む65歳以上の男女に、交換に参加する上での障壁について聞き取り調査を実施し、質的分析方法論を基にライフスタイル障壁、ケイパビリティ障壁、心理的障壁の3障壁を導いた。そして、石川県能美市が実施した住民生活基本調査データとの比較および文献調査の結果から、その障壁の一般性を確認した。その後、交換への誘因を同定することを目的に、石川県能美市商工女性まちづくり研究会の提供する購買行動の支援活動(支援者による移動販売サービス)を対象として、計9回にわたる参与観察を実施した。同サービスは市場関係の再構築し、地域資源の集約および社会的交換の機会創出という、3つのプラットフォーム要素を備えており、それに基づくサービスが参加者間の価値共創を促進し、機能的価値、社会関係価値、情緒的価値という3つの価値を共創することを明らかにした。これは既存のプラットフォーム研究とは一線を画する独創的な知見である。

 こうした研究知見を統合して高齢者変革サービスシステムモデルを構築し、その妥当性を検証するために、新たに質問紙調査を実施して得たデータに共分散構造分析を行った。その結果、高齢者が自らの持つ交換への参加障壁を、第3者である支援者からの様々な支援によって乗り越え、交換からの価値が享受できることを示した。そして、そうした障壁が段階的に乗り越えられることで生み出されていく価値が、重層的に高齢者当人に蓄積されていくことで、彼らが他者への資源伝達をする準行為者へと成長し、最終的には他者のために資源統合する一般行為者へと変革していくというプロセスを解明した。さらにこの過程で、一般行為者の行動規範は、貨幣と財の交換による契約的規範から、利他的規範に基づくようになることで、高齢者の向社会的行動が促進され、交換に主体的に参加する本質的誘因を形成していることを見出した。これらの発見事項は高齢者とその支援者の関係にとどまらず、それらの継続的関係性が生み出す制度的規範の形成も含んでいる点で、サービス研究、とりわけ人間のWell-beingに関わるTSR(Transformative Service Research)分野に対して意義があり、同時に高い新規性を持つ。

 以上、本論文は、高齢化が進む地方都市の持続可能性課題に対し、サービス学の観点から高齢者の自律性を促し、社会的価値を創出する概念モデルを提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.