Transformative Service System Model for Healthcare Services Access in a Limited Resource Context

Author: Ahmed Toufiq(石川・博士)

適切な医療サービスには設備、人員、知識資源の充実が重要である。しかし限られた資源しか持ちえない途上国、とりわけ地方地域やスラムでは、資源不足による医療サービスへのアクセス課題が深刻である。当該地域において、どのようにその課題を克服できるかという問いは、人間のウェルビーイング(以後、WBとする)にとって重要である。本研究はこうした問題意識のもと、バングラデシュを拠点に活動する非政府組織Bangladesh Rural Advancement Committee: BRACの医療プログラム活動を成功事例として分析し、限定的な資源保有化における医療サービスシステムのモデルを提案したものである。

 研究で特筆すべき第1点は、どのように医療サービスに関わる人員を供給しているかという視点から、同医療プログラムの下でサービスを行う人材の動機づけ要因に注目した点である。BRACの協力のもと、シャストシェビカ(Shasthya Sebika)と呼ばれる、集落の現場で簡単な保健アドバイスや医薬品販売を行っている現場サービススタッフ50名と、シャストコルミ(Shasthya Karmi)と呼ばれる、その指導役24名にインタビューを実施した。得られたデータを共起ネットワーク分析した結果、研修を通じて得た知識を基に地域の患者に保健指導したことで(対象者が救われた経験を通じて)自分自身の社会的役割についての価値観が変化し、それを機に、仕事への内発的動機づけを保有する傾向にあることを見出した。

 また特筆すべき第2点として、モバイルを含めた高度技術との関係から、サービスの質の維持の取り組みを検討している点である。必ずしも教育水準が十分でない地域の患者は、現場サービススタッフが口頭で保健アドバイスをしても知識の移転につながらない。その場合は携帯端末を用いて動画で、例えば妊婦の日々の体調管理や子供の栄養の取らせ方について知識を移転している。また、夜間など必ずしも現場スタッフが個人宅に訪問できない場合に、携帯電話を用いて遠隔で相談をする体制も整えている。そうした技術がサービススタッフの指導の下、市民にも受容されていることを、聞き取り調査を通じて見出した。

 研究ではこうした知見を基に医療サービスシステムモデルを提案し、さらにそのモデルの特徴を、途上国で行われている他の医療プログラム事例と比較分析することで明確にした。結果、人材供給と技術利用の観点から、提案モデルは現状のプログラムと比較して持続可能性があること等、他には無い特徴を見出した。サービス研究では、人間のWBを主眼にした領域はあるものの、こうした持続性のある途上国の医療サービスシステムの提案につながる知見は十分に無く、新規性が高い。

 以上、本論文は、限定資源化における医療サービスアクセスの課題に関し、サービス学の観点から安定的人材供給と技術によるサービス品質維持の要素を有機的に連結したモデルを提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.