官僚制組織における公式仲介人を通じた情報の伝達・活用マネジメントの研究
Author: 伊藤 朝陽(品川・博士)
官僚制は組織を合理的かつ効率的に管理するためのシステムとして現在でも採用される形態だが、殊に組織が大規模化すると、成員への情報伝達・活用の観点で同システムは必ずしも十分に効果を発揮しない現実がある。そこで多くの大規模官僚制組織では、仲介人を公式に設置して効果的な情報伝達に務めるのだが、知識経営研究として公式仲介人を通じた組織内情報伝達・活用のプロセスの解明に取り組んだものは十分な蓄積が無い。本研究はこうした問題意識のもと、公式仲介人はどのようにして組織の情報伝達・活用を促進しているのかを主たる問いに設定し、事例分析と実験的手法を用いてそれに答え、大規模官僚制組織の情報伝達理論に新しい視座を提供するものである。
論文ではまず、既存の知識経営で議論されてきた情報・知識伝達を担う人材像と比較し、公式仲介人を①組織内部横断の情報伝達仲介機能を組織的に公式任命されているものの、②情報統制役の中間管理職とは異なり多くの権限は持たず、③必ずしも当初から知識や技能の観点でコミュニケーション能力に長けていない人物、という特徴を見出した。そして、官僚制組織の典型である日本の電力会社を対象に、組織内実験と3つの事例研究を経て、情報伝達・活用を促す公式仲介人の態度や要因について分析した。
研究の結果、公式仲介人の態度に関しては、他者に対して好感のあるふるまいをすることが、組織の競争環境に依らず組織成員の安定的な情報伝達を支援することを見出した。情報伝達は組織の置かれている競争環境要素に影響されるとする研究がある中、仲介人の態度が安定的にそれを支援するという発見は新規性がある。これに加え、情報の活用促進要因として、組織成員が伝達時に認知する公式仲介人の情報への賛同があることを見出したのも本研究の貢献である。情報の伝達者は、伝達する内容に自らが賛同していなければ、またそのことが他者に伝わらなければ、結果として他者に伝達情報が活用されることは期待できない。このことを、定量分析を基に複数事例で示したことは知識経営研究の観点で重要である。
総じて、公式仲介人の好感のある言語的・非言語的コミュニケーションが、公式仲介人の伝達情報への賛同度合いを認知させ、その影響を受けて組織成員が伝達情報を信用し、活用していくというメカニズムを本研究は提案した。これは既存の知識経営研究と鑑みて独創性に富むと同時に、こうした議論が、情報に対する信念の保有や正当化といった概念を含んでいるという点で、知識移転論に新しい視座を提供する可能性も有している。
以上、本論文は、大規模官僚制組織における情報の伝達・活用に関し、知識経営論の観点から公式仲介人が起点となる情報伝達モデルを提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。
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