ヘルスケアサービスにおけるTransformative Service Literacyの研究

Author: 五島 光, 2023/03 博士号取得(予定・2023.02.05最終審査合格)

口腔ケアは、それを怠れば歯そのものの疾患だけでなく様々な内科疾患にも影響するとされており、日常から取り組む必要のある健康維持・増進(本論ではウェルビーイングと総称)行動の1つである。歯科医療サービスは、専門的技術や見地をもとに口腔ケアに関する治療や指導を行い、生活者のウェルビーイングを高める社会的機能を果たしている。

この一方で、歯科医療サービス提供者と利用者の間では、患者が一方的に持つサービス提供主体への悪印象から、本来継続利用が望ましいにも関わらずそれを停止するといった、サービスの失敗が往々にして発生している。このようなサービスの失敗は、利用者のリテラシー(基礎的能力)不足による資源の誤統合が関係すると考えられるものの、従来研究ではサービス提供者視点での議論が多く、利用者視点の分析は十分ではなかった。この背景から、本研究は歯科医療を対象に、医療サービスを通じて利用者が自らのウェルビーイングを創造するためのリテラシーの構成要素と、その育成指針の提案を目的としている。

本研究ではまず研究1として、統計的因果推論を用いた歯科医療サービス利用経験者の量的調査(n=500)の分析を基に、当人が自らの資源(知識、時間、経済的資源を含む)を活用し、サービス提供者や公的な制度に関わる資源を能動的に統合することが、ウェルビーイング醸成に有意に影響することを実証した。続いて研究2として、歯科医療サービス利用者が通院で経験した不満に関する口コミデータ(その後の行動に関するデータを含む)1075件から、利用者の価値共創参加を阻害する状況をトピックモデル手法で12の価値共破壊タイプを定義した。そして中でも「信頼の喪失」、「治療以外の条件」、「治療期間」という3つの価値共破壊タイプがサービス利用頻度の消滅・減少に有意な関係があることを見出した。

これら価値共創実践とウェルビーイング醸成の因果効果検証、および、その実践を妨げる3つの価値共破壊要素の同定と医療サービスの継続利用行動との定量的関係性評価は、既存研究に対し新規性のある発見をもたらしている。加えて研究3として、3つの価値共破壊タイプについて、該当する元のクチコミデータをKJ法で分析し、価値共破壊につながる要因を分析した。その結果10種類の要因を特定した。

こうした発見事項から、医療サービス利用者に必要なリテラシーを、Transformative Service Literacyとして、価値共創と直接関係するサービスリテラシーに加え、健康意識、情報意識、健康維持活動という間接的に共創行動に関わるリテラシーも合わせた概念として提案している。研究ではそうしたリテラシーを醸成するための医療サービスのあり方についても考察・提案しており、実務的な有用性もある。

以上、本論文は、医療サービスにおけるウェルビーイング醸成のためのリテラシーとのその形成方法を提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.