持続可能な社会的発展のための地域活性化促進モデル: 新潟県湯沢町の住民主体の地域づくりの事例研究
Date: September 30, 2025 (Phd dissertation)
Author: 江野 泰子
本論文は,地域における住民主体の活動が地域資源の開発・活用へとつながる価値共創システムの生成メカニズムを明らかにし,地域活性化を促進するモデルを構築した研究である.特に,感情的資源としてのシビックプライドと,行為主体が資源統合者へと変容するアクター変容モデルを統合した理論枠組みを提示し,住民の主体的参加がどのように価値創造へ発展するかを説明している点において,新規性と学術的貢献が認められる.
本論文は,Grounded Theory Approach(GTA)による質的単一事例研究を採用し,新潟県湯沢町を対象に15名の半構造化インタビューおよび現地観察を実施している.観光資源を有する中山間地という地域特性の中で,移住者や関係人口を含む多様な住民がどのように関係性を築き,役割を変化させながら資源統合を進めてきたのかが詳細に記述されている.精緻なデータ収集と逐次比較による理論生成の手法は,地域研究における質的アプローチの適用例としても高く評価できる.
分析の結果,住民間の相互作用がシビックプライドを醸成し,それが資源統合行動を促進する循環的メカニズムを明らかにした.くわえてこのプロセスにおいて,移住者や関係人口が既存住民との間に新たなネットワークや視点をもたらし,地域活性化の触媒として機能することが示されている.この知見は,人口減少や高齢化に直面する多くの地域において応用可能であり,特に観光や地域資源の活用を軸としたまちづくりの現場において有用性が高いと考えられる.
本研究の独創性は,感情的資源と行動変容の理論の統合によって,地域住民の役割変容と価値共創のダイナミクスを包括的に説明した点にある.また,理論構築にとどまらず,地域マネジメントの実践指針として活用可能なモデルを提示しており,実務的貢献も大きい.特に,住民が未来に向けた知性を持ち寄り,集合的に成果を活用するという点で,新たな知識経営の在り方にも展開が期待できる点は,持続可能性を志向する社会において重要な意義を有する.もっとも,本研究は単一事例を対象としており,地域特性に依存するため,今後は異なる地域への適用を通じて,モデルの妥当性や普遍性を検証することが望まれる.
以上の理由から,本論文は,地域資源活用と価値共創に関する学術的・実務的知見を深化させ,持続可能な地域活性化に向けた理論的・方法論的貢献を果たすものである.
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