地域産品の持続的購買関係を形成する要因の研究

Author: 岩永 洋平(Iwanaga Yohei),2024年3月博士学位取得

地域性を活かした製品(地域産品)が多様な消費者に支持され、継続的販売に結実していくことは、地域活性化への重要な駆動力となる。この認識のもと、本研究は地域産品が地域外の顧客と持続的に購買関係を形成するための要因の解明を目的としている。第1章ではこうした問題意識および目的を説明し、とりわけ公的支援を得て地域産品を開発する6次産業化認定事業者の多くが持続的な購買を実現していないことから小規模事業の域を出ない現状を指摘している。そして第2章において、地域ブランドおよび持続的購買に関する先行研究をレビューし、既存研究が(1)地域産品の持続的購買意向に影響する因子の特定ができていないこと、(2)持続的購買において重要と考えられる取引主体間の関係性構築の考察が不十分であることを指摘した。

そこで第3章では、消費者の持続購買意向に影響する諸要因を考察したうえで、動機づけ-態度形成-結果としての持続購買意向のプロセスで規定される仮説モデルを提案した。動機付け要因には、商品の消費経験によって得られる商品評価と、事業者の自己表現の観察で得られる知識に分け、態度形成には、ウェーバーの社会的行為論を援用し商品便益の獲得を目的とする目的合理的な信頼と、事業者との取引関係自体を目的とする価値合理的なコミットメントの、2つの態度を設定した。

モデルの妥当性を検証すべく、第4章では5つの地域産品の1、644件の顧客を対象とした定量調査・分析を実施した。結果、観察による知識は商品評価に強い影響を与え、持続購買意向は価値合理的なコミットメントの影響が無視できないことを指摘した。この結果を受け、第5章では顧客と事業者の持続的購買関係の具体的な形成過程を明らかにすべく、岩手県の地域産品事業者を対象として事例研究を行った。初回購買段階で地域産品の消費経験をした消費者は、関連するマーケティング刺激(地域や作り手の情報)を通じて地域理解と事業者の人格認識を深め地域事業者への信頼を形成し、それが消費経験を経た後も、事業者の日常的の振舞いの観察を通じて強化され、事業者への信頼をさらに深めて継続購買に至っていることを説明した。

こうした本論文の論旨を踏まえ、審査では、従来の地域経営研究では十分な研究蓄積のなかった地域産品の持続的購買行動に注目し、量的・質的研究手法で、その行動には事業者の活動観察から獲得した知識が影響しうることを指摘した点に新規性があることを認めた。加えてその視点に基づくマーケティング活動は経済的な地域活性化を目指す上での新しい視点として、実務的にも一定の有用性があることを確認した。以上、本論文は、知識視点で地域産品の持続的購買を説明するモデルを提案したものであり、学術的に貢献するところが大きい。

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.