Older Tourists’ Subjective Well-being: A Social Gerontology Perspective on Transformative Technology

Author: Liu Yuchi, 2025年6月博士学位取得


本論文は,高齢者の観光活動が主観的ウェルビーイング(Subjective Well-being)に与える影響について,技術受容,情動的関与,社会的参加の3つの側面から実証的かつ理論的に検討したものである.

本論文は3つの実証研究によって構成されており,それぞれ観光活動におけるモバイル技術の受容と効果,情動的関与の効果と促進要因,そして社会的参加と認知的健康,の視点から主観的ウェルビーイング醸成のための効果的アプローチを検討している.特に第3研究では,中国とアメリカを対象とした大規模高齢者調査データ(CHARLSおよびHRS)を用いたクロスカルチャー分析を通じ,文化的背景が社会的参加と認知機能に与える影響の類似性と異質性を明らかにしており,国際比較の視点に基づく実証的貢献が高く評価できる.

この研究を支える理論的基盤として,Technology Acceptance Model(TAM),Emotional Engagement理論,Social Support理論を統合的に活用し,高齢者における観光経験とウェルビーイング向上のメカニズムを多角的にモデル化している.加えて,感情に配慮した観光サービス設計に向けた概念枠組み「Emotion-Friendly Environment(EFE)」を提案するなど,理論と実務の架橋も試みられており,学術的・実務的双方の貢献が認められる.

方法論の面においては,質的・量的手法を柔軟に組み合わせた混合研究法を採用し,各研究対象に対する調査設計の妥当性や分析の信頼性においても適切な配慮がなされている.特に質的調査による参与者の語りの掘り下げは,観光体験の個別性と主観的意味づけを丁寧に描き出している.

本論文は,観光を一種のサービス体験として捉え,高齢者の主観的ウェルビーイング醸成のための情動的関与を中心とする新しいサービスマネジメントのあり方を提案している.これはSDG3(健康),SDG4(質の高い教育),SDG10(不平等課題克服),SDG11(包括性のある公共空間創造)を推進していくための提言でもあり,本研究の社会的価値創造への貢献が見出せる.

以上の点を踏まえ,本論文は高齢者のウェルビーイング研究における新たな理論的視座を提示し,実務への応用可能性にも優れた研究成果であると認められる.

Shirahada Lab.

北陸先端科学技術大学院大学 知識科学系 白肌研究室 Well-being志向のサービス学 Transformative Service Research (TSR)を推進.